ベトナム拠点を運営する日本企業にとって、 個人所得税(PIT:Personal Income Tax) は、給与計算と並んで理解が欠かせない制度です。
社会保険料や各種手当、扶養控除の扱いによって課税額が大きく変わるため、 誤った理解は税務リスクにつながります。
本記事では、ベトナムにおける PITの基本的な仕組みから 控除の考え方・計算ステップ までを、実務目線でわかりやすく解説します。
【2026年7月1日 改正PIT法 施行済み】
本記事は、改正個人所得税法(Law No.109/2025/QH15)に基づく最新の内容です。同法は2026年7月1日に施行され、旧法(Law No.04/2007/QH12)は廃止されました。累進税率は7段階から5段階へ簡素化され、本人控除・扶養控除も引き上げられています。
なお、給与・賃金所得に関する控除額の引上げは、Resolution 110/2025/UBTVQH15により2026年1月1日から始まる税期間に遡って適用されています。
ベトナムの個人所得税(PIT)とは
PIT(Personal Income Tax)は、個人が得た所得に対して課される税金です。
ベトナムでは、給与・賞与・手当などの労働に基づく所得が主な課税対象となります。
給与計算では、毎月の源泉徴収としてPITを計算・控除し、 企業が税務当局へ納付します。
PITの課税対象となる主な所得
給与に関連する以下の所得は、原則としてPITの課税対象です。
- 基本給
- 役職手当・職務手当
- 残業代・深夜労働・休日労働の賃金
- 課税対象となる各種手当
一方、実費精算や福利厚生的な支給については、 条件を満たせば非課税となるケースがあります。
PIT計算における控除の考え方
PITは、総支給額にそのまま税率を掛けるわけではありません。
以下の控除を差し引いた課税所得に対して税率が適用されます。
① 社会保険料控除
従業員が負担する以下の社会保険料は、PIT計算時に控除されます。
- 社会保険(SI)
- 健康保険(HI)
- 失業保険(UI)
② 本人控除
ベトナムでは、納税者本人に対して月額固定の本人控除が認められています。
現在の控除額は 月額 15,500,000 VND です(年額 186,000,000 VND)。
③ 扶養控除
一定の条件を満たす扶養家族がいる場合、 扶養控除を適用することができます。
現在の控除額は、扶養家族1名につき 月額 6,200,000 VND です。
扶養控除を受けるには、事前登録と証憑管理が重要です。
| 控除の種類 | 旧法(~2025年12月) | 現行(2026年1月~) |
|---|---|---|
| 本人控除 | 11,000,000 VND/月 | 15,500,000 VND/月 |
| 扶養控除(1名あたり) | 4,400,000 VND/月 | 6,200,000 VND/月 |
PITの計算ステップ(実務フロー)
給与計算におけるPITは、以下の手順で算出します。
- 総支給額(課税対象所得)の確定
- 社会保険料の控除
- 本人控除・扶養控除の適用
- 課税所得の算出
- 累進税率を適用してPITを計算
ベトナムのPITは累進税率が採用されており、 所得が高くなるほど税率も高くなります。
現在の個人所得税(PIT)累進税率(2026年7月1日~)
ベトナムの個人所得税(PIT)は、課税所得に対して累進税率が適用されます。
2026年7月1日施行の改正PIT法(Law No.109/2025/QH15)により、税率区分は7段階から5段階へ簡素化されました。以下は、月次の課税所得を基準とした現在の税率表です。
| 課税所得(月額) | 税率 |
|---|---|
| 10,000,000 VND 以下 | 5% |
| 10,000,001 ~ 30,000,000 VND | 10% |
| 30,000,001 ~ 60,000,000 VND | 20% |
| 60,000,001 ~ 100,000,000 VND | 30% |
| 100,000,000 VND 超 | 35% |
この税率は、各階層ごとに段階的に適用される点が重要です。
たとえば、課税所得が高い場合でも、全額に高税率がかかるわけではありません。
改正による変更点(旧税率との比較)
2026年6月30日までの旧税率(7段階)と比較すると、以下のとおり変更されています。
| 項目 | 旧法(~2026年6月30日) | 現行(2026年7月1日~) |
|---|---|---|
| 税率区分 | 7段階 | 5段階 |
| 適用税率 | 5/10/15/20/25/30/35% | 5/10/20/30/35% |
| 最高税率35%の閾値 | 80,000,000 VND 超 | 100,000,000 VND 超 |
中間所得層を中心に減税効果が生じるほか、ネット契約(手取り保証)の駐在員については、グロスアップ計算における会社負担額が減少します。
なお、非居住者(暦年183日未満の滞在者)に適用される税率は、ベトナム源泉所得に対して一律20%で、改正後も変更ありません。
実務でよくある注意点
- 課税・非課税手当の区分を誤る
- 扶養控除の登録漏れ・証憑不足
- 社会保険料控除の計算ミス
- 給与計算システムの税率表が旧7段階のままになっている
- 2026年1月~6月分について、旧控除額(11,000,000/4,400,000 VND)で計算したまま遡及修正をしていない
これらは、税務調査で指摘されやすいポイントです。
PIT法改正との関係
改正PIT法(Law No.109/2025/QH15)は2026年7月1日に施行済みです。
改正の詳細および実務対応については、以下の記事もあわせて確認してください。
▶ 関連記事:ベトナム国会、個人所得税法改正を可決 ― 2026年7月1日施行
また、施行政令・通達など下位法令の内容は今後も追加・更新される可能性があるため、最新情報の確認が必要です。
給与計算全体との関係
PITは、給与計算・残業代・手当・社会保険と密接に関係しています。
制度を部分的に理解するのではなく、 給与計算全体の流れとして整理 することが重要です。
▶ 関連記事:
ベトナム給与計算の基本ルール【完全ガイド】
ベトナムの手当と課税・社会保険の扱い
まとめ
ベトナムの個人所得税(PIT)は、 控除の仕組みと計算ステップを正しく理解することで、 過不足のない税務処理が可能になります。
2026年7月1日施行の改正により、税率区分は5段階、本人控除は15,500,000 VND/扶養控除は6,200,000 VNDとなりました。給与計算システムの設定が最新のものになっているか、あらためて確認することをおすすめします。
給与設計・手当設計・社会保険とあわせて 一体で管理・運用 することが、税務・労務リスクを抑えるポイントです。


