ベトナム給与計算の基本ルール

ベトナム拠点を運営する日本企業にとって、給与計算(Payroll)は最も重要かつ複雑な人事労務業務のひとつです。
最低賃金の地域区分、残業代の計算方法、社会保険(SI・HI・UI)、個人所得税(PIT)など、日本とは制度設計が大きく異なります。

本記事では、ベトナム給与計算の基本ルールを「全体像 → 各要素 → 実務ポイント」の順で詳しく解説します。
初めてベトナム給与計算を担当する方から、制度を整理し直したい管理者の方まで、実務でそのまま使える完全ガイドです。

目次

ベトナム給与計算の全体フロー

ベトナムの給与計算は、以下の流れで行われます。

  • 基本給・手当の確定
  • 勤怠(出勤日数・残業・休日労働)の集計
  • 社会保険料(SI・HI・UI)の計算
  • 個人所得税(PIT)の計算
  • 手取り額(Net)・会社総人件費の確定

これらは相互に密接に関係しており、どれか一つを誤ると全体の計算が崩れる点が特徴です。

基本給と最低賃金制度(Region I〜IV)

ベトナムでは、最低賃金が地域(Region I〜IV)ごとに設定されています。
企業は、事業所の所在地に応じた地域区分の最低賃金を下回る基本給を設定することはできません。

地域区分 主な対象地域(例) 特徴
Region I ホーチミン市中心部、ハノイ市中心部 最も最低賃金が高い都市部
Region II ハイフォン、ダナン、ビンズオン省など 工業団地が多い準都市部
Region III 地方都市・周辺工業地域 中規模地域
Region IV 農村部・地方エリア 最低賃金が最も低い

この地域区分は、最低賃金だけでなく、UI(失業保険)の上限額にも影響します。

手当の種類と課税・保険対象の考え方

ベトナムの給与設計において重要なのが、手当ごとに社会保険(SI・HI・UI)や個人所得税(PIT)の扱いが異なる点です。
すべての手当が一律に課税・保険対象になるわけではありません。

手当の課税・保険対象を判断する基本ルール

一般的に、以下の考え方で判断されます。

  • 労働の対価として毎月固定的に支給されるものは、保険・課税対象になりやすい
  • 実費精算や福利厚生的な性格のものは、非課税・非保険となるケースがある

代表的な手当と扱い(概要)

手当の例 社会保険 PIT 備考
役職・責任手当 対象 対象 基本給に近い扱い
昼食手当 条件付き 条件付き 上限超過で課税対象
通勤手当 非対象 条件付き 実費精算が原則
住宅手当 対象 対象 駐在員で注意

手当の設計を誤ると、想定外の社会保険料や税負担が発生するため、給与体系の設計段階で慎重な検討が必要です。

▶ 詳細解説:ベトナムの手当と課税・社会保険の扱い

残業代・深夜・休日労働の計算ルール

ベトナムでは、残業代の割増率が法律で明確に定められています。

  • 平日残業:通常賃金の150%以上
  • 週休日労働:200%以上
  • 祝日労働:300%以上
  • 深夜労働:追加割増あり

計算ミスは、未払い残業や是正勧告の原因になります。

▶ 関連記事:残業代・休日労働の計算方法

社会保険(SI・HI・UI)の基本構造

ベトナムでは、以下の3つの保険への加入が義務付けられています。

  • SI(社会保険)
  • HI(健康保険)
  • UI(失業保険)

保険料は従業員負担分と会社負担分に分かれており、給与計算時に同時処理します。

▶ 詳細解説:ベトナムの社会保険加入の基準と計算方法

個人所得税(PIT)の計算ステップ

PITは以下の流れで計算されます。

  • 総支給額の確定
  • 社会保険料の控除
  • 本人控除・扶養控除の適用
  • 課税所得に累進税率を適用

2026年7月からは、個人所得税法の改正が施行予定です。

▶ 関連記事:個人所得税法改正(2026年7月施行)

手取り額と会社総人件費の違い

ベトナムでは、以下の3つを明確に区別する必要があります。

  • 総支給額(Gross)
  • 手取り額(Net)
  • 会社の総人件費(Company Cost)

特に社会保険の会社負担分を考慮しないと、実際のコストを過小評価してしまいます。

まとめ:ベトナム給与計算は全体理解が不可欠

ベトナムの給与計算は、最低賃金・社会保険・税金・労働法が複雑に絡み合っています。
部分的な対応ではなく、全体像を理解したうえでの運用が重要です。

ESTでは、こうした複雑な給与計算・人事労務管理を一元化し、日本本社と現地拠点の双方が安心して使える環境を提供しています。

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