ベトナムの給与計算・社会保険を正しく行ううえで、最低賃金と社会保険料の上限(キャップ)は非常に重要な基準です。
特に最低賃金は、毎年改定される可能性があり、給与設計や社会保険計算に直接影響します。
本記事では、2026年時点の最低賃金制度と社会保険上限の仕組みを、日本企業向けにわかりやすく解説します。
【2026年7月1日 更新】社会保険料の上限の算定基礎について
社会保険(SI)・健康保険(HI)の上限は、最低賃金ではなく「参照レベル(mức tham chiếu)」の20倍です。2026年7月1日に参照レベルが 2,340,000 VND から 2,530,000 VND に改定され(政令161/2026/ND-CP)、上限は 月額 50,600,000 VND となりました。
一方、失業保険(UI)の上限は「地域別最低賃金」の20倍で、SI・HIとは算定基礎が異なります。この違いは実務で混同されやすい重要なポイントです。
ベトナムの最低賃金とは?
ベトナムの最低賃金は、地域別最低賃金(Region-based Minimum Wage)として定められており、
企業は従業員に対して最低賃金以上の給与を支払う義務があります。
最低賃金は、給与額だけでなく、社会保険計算の下限や失業保険の上限としても使用される点が重要です。
2026年の地域別最低賃金
最低賃金は地域(Region I~IV)ごとに設定されています。
以下は政令293/2025/ND-CP(2025年11月10日公布)により、2026年1月1日から適用されている金額です(前年比 平均7.2%増)。
| 地域 | 主な対象エリア | 最低賃金(月額) | 最低賃金(時間給) |
|---|---|---|---|
| Region I | ホーチミン市中心部、ハノイ中心部 など | 5,310,000 VND | 25,500 VND |
| Region II | ホーチミン市郊外、ハノイ郊外 など | 4,730,000 VND | 22,700 VND |
| Region III | 地方主要都市 | 4,140,000 VND | 20,000 VND |
| Region IV | 地方エリア | 3,700,000 VND | 17,800 VND |
省・市の統合に伴う地域区分の経過措置
行政区画の再編により、異なる地域区分の地域が統合されたケースがあります。この場合、従前の水準を下回らないよう高い方の区分が暫定的に適用されます。自社の事業所がどの区分に該当するか、政令の附録で必ず確認してください。
最低賃金が影響する主なポイント
- 基本給の下限設定
- 失業保険(UI)計算の上限
- 残業代・手当設計
- 労働契約書の賃金条項
- 試用期間中の給与(正規賃金の85%以上)
👉 給与設計の全体像については「 給与計算の基本ルール 」をあわせてご確認ください。
社会保険料の上限(キャップ)とは?
ベトナムの社会保険には、保険料計算の上限額(キャップ)が設定されています。
これは、給与が高額であっても、一定額までしか保険料計算に使用されない仕組みです。
SI・HI と UI で算定基礎が異なる
実務上、最も誤解が多いのがこの点です。社会保険・健康保険と、失業保険とでは、上限の算定基礎が異なります。
| 保険 | 算定基礎 | 上限額(月額) |
|---|---|---|
| 社会保険(SI) | 参照レベル × 20倍 | 50,600,000 VND |
| 健康保険(HI) | 参照レベル × 20倍 | 50,600,000 VND |
| 失業保険(UI) | 地域別最低賃金 × 20倍 | Region I:106,200,000 VND Region II:94,600,000 VND Region III:82,800,000 VND Region IV:74,000,000 VND |
参照レベル(mức tham chiếu)とは
改正社会保険法(Law 41/2024/QH15)により導入された、社会保険料の算定と給付額の基準となる指標です。従来の「基礎給(lương cơ sở)」に代わる概念で、SI・HI の上限と下限はこの参照レベルを基準とします。
| 期間 | 参照レベル(月額) | SI・HI 上限(20倍) |
|---|---|---|
| ~2026年6月30日 | 2,340,000 VND | 46,800,000 VND |
| 2026年7月1日~ | 2,530,000 VND | 50,600,000 VND |
※ SI・HI の上限は参照レベルの改定に連動して変動します。最低賃金の改定とはタイミングも基準も異なる点にご注意ください。
改定時の注意点(2026年)
2026年は1月(最低賃金)と7月(参照レベル)の2回、異なる基準が改定されました。それぞれ影響範囲が違うため、分けて確認する必要があります。
- 2026年1月~:基本給が新しい最低賃金を下回っていないか確認。失業保険(UI)の上限も再設定
- 2026年7月~:SI・HI の上限を 46,800,000 → 50,600,000 VND に更新。高額所得者の保険料が変わります
- 給与計算ロジック・システム設定の修正(SI/HI と UI で別々の上限を持たせる)
- 労働契約書・社内規程の見直し
👉 社会保険計算の詳細は「 社会保険加入の基準と計算方法 」で詳しく解説しています。
日本企業がよく間違えるポイント
- SI・HI の上限を「最低賃金×20倍」と誤解する(正しくは参照レベル×20倍。UI とは基準が異なります)
- 最低賃金を「基本給」ではなく総支給額で判断してしまう
- 改定後も社会保険上限を更新していない(2026年は1月・7月の2回改定)
- 地域区分の誤認(省・市の統合による区分変更を見落とす)
具体的な失敗例は「 ベトナムでの給与計算で日本企業がつまずくポイント 」も参考にしてください。
最低賃金・社会保険を正しく管理するために
最低賃金と社会保険上限は、
- 給与計算
- 控除(SI / HI / UI / PIT)
- 労働契約
- 法改正対応
すべてに影響する重要項目です。
特にSI・HI と UI で上限の算定基礎が異なり、改定タイミングもずれるため、Excel 管理では設定漏れが起きやすい領域です。
ESTでは、最低賃金改定・参照レベル変更にも対応した給与計算・人事労務管理を一元化できます。
👉 あわせて「 控除(SI / HI / UI / PIT)の仕組み 」もご確認ください。


