ベトナム拠点における人事・労務管理で、特にトラブルになりやすいのが残業代・深夜労働・休日労働の計算です。
日本とは異なり、ベトナムでは割増率が法律で明確に定められており、計算ミスは未払い残業や是正勧告につながるリスクがあります。
本記事では、ベトナムにおける残業代・深夜・休日労働の計算ルールを体系的に解説し、実務で注意すべきポイントをわかりやすく整理します。
ベトナムの労働時間の基本ルール
ベトナム労働法では、以下が原則とされています。
- 通常の労働時間:1日8時間、週48時間以内
- 超過した時間は残業(時間外労働)として扱う
この基準を超えて働かせる場合、必ず割増賃金の支払いが必要です。
残業代の割増率(平日)
平日の所定労働時間を超えた労働については、以下の割増率が適用されます。
| 区分 | 割増率 |
|---|---|
| 平日残業 | 通常賃金の150%以上 |
「通常賃金」は、基本給および一定の手当を基に算出されます。
休日労働の割増率
週休日(通常は日曜日)に労働させた場合、以下の割増率が適用されます。
| 分 | 割増率 |
|---|---|
| 週休日労働 | 通常賃金の200%以上 |
代休を与えた場合でも、法律上の割増賃金の支払いが必要になる点に注意が必要です。
祝日労働の割増率
ベトナムの法定祝日に労働させた場合、さらに高い割増率が定められています。
| 区分 | 割増率 |
|---|---|
| 祝日労働 | 通常賃金の300%以上 |
これは、週休日・平日残業よりも厳しい規定となっており、見落としやすいポイントです。
深夜労働の割増ルール
深夜労働は、22時から翌6時までの時間帯を指します。
この時間帯に労働した場合、以下の追加割増が必要です。
- 通常の割増率に30%以上を加算
たとえば、休日の深夜労働では、200%+30%以上という計算になります。
残業時間の上限規制
ベトナムでは、残業時間にも上限が設けられています。
- 原則:月40時間以内
- 特定条件下:年200時間(業種により最大300時間)
上限を超える残業は、労働法違反となる可能性があります。
残業代の計算基礎に含める賃金範囲
残業代を正しく計算するうえで重要なのが、「何を基礎に割増率を掛けるか」という点です。
ベトナムでは、残業代は通常賃金(Normal Wage)を基礎に計算すると定められています。
通常賃金とは、単なる基本給だけではなく、労働の対価として毎月固定的に支払われる賃金を含む考え方です。
一般的な整理は以下のとおりです。
| 区分 | 代表例 |
|---|---|
| 計算基礎に含める | 基本給、役職手当、職務手当、固定額手当 |
| 原則含めない | 通勤手当、昼食手当、賞与(Tet bonus等) |
ただし、手当の名称だけで判断するのではなく、支給の実態(固定性・労働対価性)によって扱いが変わる点に注意が必要です。
この計算基礎を誤ると、残業代を支払っていても未払い残業と判断されるリスクがあります。
▶ 詳細解説:ベトナムの残業代計算基礎とは?含める賃金・含めない賃金を整理
実務でよくある注意点
- 残業代の計算基礎に含める賃金範囲を誤る
- 深夜・休日の割増を重複計算していない
- 勤怠管理が不十分で証拠が残らない
これらは、労務トラブルや行政指導の原因になります。
給与計算全体との関係
残業代・深夜・休日労働の賃金は、社会保険料や個人所得税(PIT)の計算にも影響します。
給与計算全体の仕組みを理解したうえで、正確に処理することが重要です。
▶ 関連記事:ベトナム給与計算の基本ルール【完全ガイド】
まとめ
ベトナムの残業代・深夜・休日労働の計算は、割増率や上限規制が明確に定められており、正確な理解と運用が不可欠です。
制度を正しく把握し、勤怠管理・給与計算を適切に行うことで、労務リスクを大きく減らすことができます。


