ベトナム労働契約書で注意すべき5つのポイント

労働契約書は、従業員と企業の権利と義務を明確にするための最も重要な書類のひとつです。 ベトナム拠点では、日本とベトナムの慣習・法律の違いから、契約書の不備が労務トラブルや退職時の紛争に発展するケースも少なくありません。
本記事では、ベトナム拠点を持つ日系企業が労働契約書で特に注意すべき5つのポイントを整理し、実務上のチェック観点を紹介します。

目次

1. 契約形態・期間・試用期間

まず最初に確認すべきなのは、契約の種類・期間・試用期間が、ベトナム労働法のルールに沿っているかどうかです。

1-1. 契約形態

  • 無期契約(Indefinite Term Contract)
  • 有期契約(12〜36ヶ月など)
  • 短期契約・プロジェクト契約 など

有期契約を繰り返し更新しすぎると、自動的に無期契約とみなされるリスクもあるため、更新回数・更新条件を社内ルールとして整理しておく必要があります。

1-2. 試用期間

  • 職種に応じて試用期間の上限が定められているか
  • 試用期間中の給与割合(例:本給の85%以上)が明記されているか
  • 試用期間終了後の本契約への切り替え条件が記載されているか

ポイント:
試用期間を曖昧に記載したまま運用すると、「いつから正式採用なのか」「どの給与が基準なのか」を巡ってトラブルになりやすい部分です。

2. 職務内容・勤務地・異動の取り扱い

次に重要なのが、従業員がどのような業務を行うのか、またどこで勤務するのかを明確にしておくことです。

2-1. 職務内容(Job Description)

  • 職種名だけでなく、主要な職務内容を箇条書きで記載する
  • 管理職か一般職か、権限範囲を分かるようにしておく
  • 必要に応じて、別紙の職務記述書(JD)とリンクさせる

2-2. 勤務地・異動

  • 基本となる勤務地(本社/工場/支店など)を明記する
  • 業務上の必要に応じて他拠点へ異動・出向を命じる可能性がある場合、その旨を条文に含める
  • 出張・駐在など長期的な勤務地変更時の取り扱い(手当・住居費など)を別規程と紐づける

職務や勤務地の記載があいまいだと、配属変更や業務変更の際に「契約違反」と主張されるリスクが高まります。

3. 給与・手当・残業代・支給通貨

労働契約書の中でも、トラブルになりやすいのが給与・手当・残業代に関する条項です。ベトナム労働法と社内規程の両方に整合しているか、必ず確認しましょう。

3-1. 基本給・支給通貨

  • 基本給の金額と支給通貨(VND/USD など)を明記
  • 為替レートを用いる場合、その基準日・計算方法を定義
  • 昇給や見直しのタイミング(年1回評価など)を記載

3-2. 各種手当

  • 役職手当・職務手当・食事手当・交通手当・住宅手当などを区分
  • 支給条件(勤務日数に応じて日割り/固定額など)を明記
  • 社会保険対象となる手当/対象外手当の整理は社内規程と連動させる

3-3. 残業代・割増賃金

  • 所定労働時間を超える労働に対する割増率(平日/休日/祝日)
  • 残業命令の手続きと承認フロー(上長の事前承認など)
  • 管理職の残業代の取り扱い(対象外とする場合の条件・説明)

注意:
「残業代は給与に含まれる」「固定残業代」などの取り扱いを曖昧にすると、未払い残業の請求や紛争につながる可能性があります。就業規則・給与規程と矛盾がないか必ず確認しましょう。

4. 勤務時間・休日・休暇のルール

労働時間・休憩・休日・有給休暇などのルールは、従業員の働き方に直結するため、契約書の中で十分に説明されている必要があります。

4-1. 勤務時間・休憩

  • 1日の所定労働時間(例:8時間)と週の所定労働日数
  • 始業・終業時刻、休憩時間の取り方
  • シフト勤務・交代制を採用する場合は、その旨を明記

4-2. 休日・休暇

  • 週休日(例:土・日/日・他1日 など)の取り扱い
  • ベトナムの祝日・テト休暇に関する規定
  • 年次有給休暇の日数と付与タイミング、繰越・未消化分の精算方法

休日出勤や振替休日のルールを明記しておくことで、繁忙期の運用や残業計算のトラブルを軽減できます。

5. 社会保険・福利厚生・契約終了条件

最後に、入社から退職までのライフサイクルをカバーするために、社会保険・福利厚生・契約終了(退職・解雇)に関する条項も欠かせません。

5-1. 社会保険・健康保険など

  • 社会保険・医療保険・失業保険への加入有無と負担割合
  • 民間保険・健康診断・その他福利厚生(食事補助・通勤バスなど)の有無
  • 適用開始日(試用期間中の扱い)

5-2. 契約終了・退職・解雇

  • 従業員からの退職申し出時の予告期間(例:30日前など)
  • 会社側からの契約終了・解雇の事由(業績不良・規律違反など)
  • 退職時の精算項目(未払給与・未消化有給・ボーナス・備品返却)
  • 競業避止義務や秘密保持義務(NDA)の有無

ポイント:
契約終了や懲戒解雇の条項が法律に反していると、解雇を行った際に無効と判断されるリスクがあります。ベトナム労働法に沿った表現になっているか、定期的なリーガルチェックが重要です。

自社の労働契約書、ここをチェック

最後に、ベトナム拠点の労働契約書を見直す際に確認したい項目をチェックリストとしてまとめました。

  • 契約形態・期間・試用期間が法令に沿った形で明記されている
  • 職務内容・勤務地・異動の可能性が具体的に説明されている
  • 給与・手当・残業代・支給通貨のルールが就業規則と一致している
  • 勤務時間・休日・休暇の取り扱いがベトナム労働法と整合している
  • 社会保険・福利厚生・退職・解雇の条件が整理され、従業員に説明できる

これらの項目のうち、いくつかでも曖昧な点がある場合は、契約書と社内規程の見直しを検討してみてください。

まとめ:契約書は「トラブルを減らすための設計図」

労働契約書は、採用時に交わす形式的な書類ではなく、従業員と企業双方の権利と義務を守る「トラブルを減らすための設計図」です。

ベトナム拠点では、日本との法制度の違いに加え、言語・文化のギャップも存在します。契約書の内容を標準化し、就業規則・給与規程・社会保険の運用と一貫性を持たせることが、安定した人事労務運営の第一歩と言えます。

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