ベトナムに進出している日系企業の多くが悩む業務のひとつが、現地スタッフや駐在員を含めた給与計算です。
社会保険や個人所得税のルールが日本と大きく異なるうえに、ローカルスタッフと駐在員で適用される制度も変わるため、
「毎月の計算に時間がかかる」「ミスが多い」「税務調査が不安」といった声も少なくありません。
この記事では、ベトナム拠点の給与計算で日本企業が特につまずきやすいポイントを整理し、
なぜ問題が発生しやすいのか、その背景と合わせて解説します。
ベトナム給与計算でつまずきやすい5つのポイント
ベトナム拠点の給与計算でトラブルや、やり直しが発生する原因は、大きく次の5つに整理できます。
- 社会保険(BHXH・BHYT・BHTN)の算定基準が複雑
- 勤怠データが部門ごとにバラバラで、給与計算の基礎情報が揃わない
- 駐在員とローカルスタッフでルールが大きく異なる
- 個人所得税(PIT)の控除・課税区分でエラーが起きやすい
- 毎年の最低賃金改定に追随できず、遡及対応が発生する
それぞれのポイントについて、もう少し詳しく見ていきます。
1.社会保険(BHXH・BHYT・BHTN)の計算基準が複雑
ベトナムの社会保険は、本人負担と企業負担それぞれに割合が決まっており、
日本とは計算方法や対象範囲が大きく異なります。また、社会保険の算定対象となる
手当の範囲が企業ごとに異なる点も、実務上の大きな悩みの種です。
- どの手当が社会保険の対象になるのか、社内で定義されていない
- 法律上の上限額(天井)があるが、正しく反映されていない
- 給与体系の変更時に、社会保険計算の見直しが行われていない
よくあるケース:
社会保険の対象外とすべき手当を含めてしまい、数ヶ月分の過剰徴収が発生。従業員への返金と帳簿修正に多くの工数がかかった、という事例も見られます。
2.勤怠データの不統一で、給与計算の基礎情報が揃わない
給与計算の出発点となるのが、日々の勤怠データです。ところが、実際の現場では次のような状況が起きがちです。
- 部門ごとに異なる勤怠フォーマット(Excel・紙・打刻システムが混在)
- 残業・深夜・休日出勤などの申請が後追いで提出される
- 承認フローが整備されておらず、誰の判断で確定したのか分からない
その結果、
- 給与計算の締切直前まで勤怠データが揃わず、担当者が徹夜対応になる
- 計算後に「残業が反映されていない」といった修正依頼が多発する
- 修正履歴が残らず、後から計算根拠を確認できない
勤怠データのフォーマットとルールを統一できていないことが、多くのトラブルの出発点になっています。
3.駐在員とローカルスタッフでルールが異なる
日系企業では、日本からの駐在員と現地採用のローカルスタッフが混在していることが一般的です。
この2つの区分は、給与・社会保険・税務の取り扱いが大きく異なるため、計算を複雑にします。
| 項目 | 駐在員 | ローカルスタッフ |
|---|---|---|
| 社会保険 | 日本側で加入し、ベトナム社会保険は対象外となるケースも | ベトナムの社会保険(BHXH・BHYT・BHTN)が適用 |
| 給与の構成 | 日本本社給与+ベトナム側給与+住宅手当など | 基本給+各種手当(役職・食事・交通など) |
| 個人所得税(PIT) | 日本側・ベトナム側の支給を合算して課税対象を判断 | ベトナム側給与を基準に課税 |
特に駐在員については、「日本側の支給」「ベトナム側の支給」「現物支給(社宅など)」をどこまでPITの課税対象とするかの判断が難しく、設計を誤ると税務リスクにつながります。
4.個人所得税(PIT)の計算でエラーが起きやすい
ベトナムの個人所得税(PIT)は累進課税で、所得に応じて複数の税率が適用されます。
日本企業がつまずきやすいポイントは、制度そのものの理解不足というよりも、運用面の漏れにあります。
- 扶養控除(Người phụ thuộc)の登録・更新が従業員任せになっている
- 福利厚生や手当の課税/非課税区分が曖昧なまま運用されている
- 日本側からの手当・ボーナスをPITの対象に含め忘れている
注意:
扶養控除の未登録や手当の区分間違いは、税務調査でも指摘されやすいポイントです。後からまとめて追徴課税となると、従業員との信頼関係にも影響します。
5. 最低賃金の改定に追随できず、遡及対応が発生する
ベトナムでは地域ごとに最低賃金が定められており、政府の決定に応じてほぼ毎年のように改定されるのが一般的です。
最低賃金の改定に合わせて、本来であれば次のような見直しが必要になります。
- 基本給の水準
- 社会保険算定の基準額
- 残業単価の見直し
しかし、改定内容のキャッチアップが遅れたり、社内への反映が遅くなったりすると、
- 最低賃金を下回る給与で数ヶ月支給してしまう
- 社会保険料の算定基準が古いままになっている
- 結果的にまとめて遡及対応が必要になる
という事態が起こり得ます。人事労務担当者だけでなく、経営層も含めた体制で改定情報をチェックする仕組みが重要です。
自社のベトナム給与計算は大丈夫?チェックリスト
以下の項目にいくつ「はい」と答えられるかを確認することで、自社のリスクを簡易的に把握できます。
- 社会保険の対象となる手当/対象外の手当を明確に定義している
- 勤怠データのフォーマットとルールが、全ての部門で統一されている
- 駐在員の日本側給与・ベトナム側給与と課税範囲を整理できている
- 扶養控除の登録・更新を年1回などの頻度で確実に行っている
- 最低賃金の改定情報を毎年確認し、給与・社会保険に反映している
- 給与計算のロジックや履歴が担当者以外でも追える状態になっている
もし「いいえ」が多い場合は、制度面・運用面の両方で、見直しの余地があるかもしれません。
まとめ:制度理解だけでなく、運用の標準化が鍵
ベトナムの給与計算が難しい理由は、制度そのものが複雑なだけではありません。
実際には、
- 勤怠や手当のルールが部署ごとにバラバラ
- 駐在員とローカルの違いが整理されていない
- 担当者にノウハウが属人化している
といった運用面の問題が、ミスやトラブルの多くを生み出しています。
ベトナム拠点の給与計算を安定させるためには、
「制度の正しい理解」とともに、
「データとルールの一元管理」「担当者が変わっても運用できる仕組みづくり」
が欠かせません。
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現地の制度に合わせた設計と、日本企業の運用に即した画面・機能で、
現場の業務負荷とミスの両方を減らすことを目指しています。
- 勤怠・給与・各種手当のデータを一元管理
- 手当・控除ルールをマスタとして設定し、毎月の計算を標準化
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