ベトナムの残業代計算基礎とは?含める賃金・含めない賃金を整理

ベトナムの残業代計算において、実務担当者が最も誤りやすいのが、「残業代の計算基礎に含める賃金の範囲」です。
残業代を支払っているつもりでも、この範囲を誤ると未払い残業と判断される可能性があります。

目次

残業代は「通常賃金」を基礎に計算する

ベトナム労働法では、残業代は通常賃金(Normal Wage)を基礎に計算すると定められています。
通常賃金とは、単なる基本給だけではなく、労働の対価として支払われる賃金全体を指します。

計算基礎に含めるべき賃金(原則)

以下のような賃金は、原則として残業代の計算基礎に含める必要があります。

項目理由
基本給労働の対価の中心
役職手当・責任手当職務・地位に基づき毎月固定で支給
職務手当・技能手当業務内容と直接関連
固定額で毎月支給される手当実質的に賃金の一部と判断される

重要なのは、手当の名称ではなく「実態」で判断される点です。

計算基礎に含めなくてよい賃金(条件付き)

一方で、以下のような項目は、原則として残業代の計算基礎に含めなくてよいとされています。

項目理由
昼食手当福利厚生的性格が強い
通勤手当実費補填としての性格
成果連動型ボーナス毎月固定ではない
年1回の賞与(Tet bonus等)不定期支給

ただし、昼食手当などを毎月定額で支給している場合は、実態により計算基礎に含めるべきと判断されることがあります。

実務で非常に多い誤り

  • 基本給のみを基礎に残業代を計算している
  • 「手当」という名称だけで除外している
  • 社会保険の対象外=残業代基礎不要と誤解している

社会保険と残業代の計算基礎は、必ずしも一致しません。

実務での判断ポイント(簡易チェック)

以下の質問に「はい」が多いほど、残業代の計算基礎に含める必要が高いと考えられます。

  • 毎月固定で支給しているか
  • 出勤・欠勤に関係なく支給されるか
  • 業務内容や役職と紐づいているか
  • 労働契約書に賃金として明記されているか

計算ミスが招くリスク

残業代の計算基礎を誤ると、以下のようなリスクがあります。

  • 労働監査での是正指導・追徴支払い
  • 退職時の未払い残業請求
  • 労使トラブルの長期化

特に退職時のトラブルは、過去に遡って請求されるケースが多く注意が必要です。

残業代の計算基礎は、給与設計・手当設計と密接に関係しています。
制度を正しく理解し、給与体系全体として整合性のある設計を行うことが重要です。

まとめ

ベトナムの残業代計算において重要なのは、割増率そのものよりも、 「何を基礎に割増率を掛けるか」 という点です。

残業代は、基本給だけで計算すればよいわけではなく、 労働の対価として毎月固定的に支払われる賃金 を含めた通常賃金を基礎に算出する必要があります。

一方で、通勤手当や昼食手当、賞与(Tet bonus等)のように、 福利厚生的・不定期な支給については、原則として計算基礎に含めないと整理されます。

ただし、手当の名称だけで判断するのではなく、 支給の実態(固定性・労働対価性) によって扱いが変わる点には注意が必要です。 この判断を誤ると、残業代を支払っていても 未払い残業と指摘されるリスク があります。

ベトナムでは、残業代の計算基礎が 社会保険料や個人所得税(PIT)の計算とも密接に関係しています。
給与体系全体を俯瞰し、 制度として整合性の取れた賃金設計・運用 を行うことが、労務リスクを抑えるうえで不可欠です。

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