2025年7月施行 ベトナム改正社会保険法とは
2024年6月29日、ベトナム国会は改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội số 41/2024/QH15)を可決しました。2025年7月1日から施行され、旧法(2014年社会保険法 Law 58/2014/QH13)を廃止・置換します。
今回の改正では、加入対象の拡大、算定基礎の明確化、年金受給要件の緩和、一時金引出しの制限強化など、日系企業の人事・給与実務に直結する変更が多数含まれています。本記事では、改正の要点を実務目線で整理し、企業が今すぐ対応すべきことを解説します。
主要な変更点の一覧
| 項目 | 旧法(2014年法) | 新法(2024年法) |
|---|---|---|
| 算定基礎 | 基本給+手当+その他追加支払額 | 「その他追加支払額」の範囲を縮小・明確化 |
| 加入対象 | 正社員中心 | パートタイム・個人事業主・外国人配偶者等を追加 |
| 年金最低加入年数 | 20年 | 15年 |
| 一時金引出し | 12ヶ月経過後に申請可 | 新規加入者は原則廃止(4条件のみ) |
| 延滞利息 | 規定あり | 1日あたり0.03%(年率約10.95%)+刑事責任の可能性 |
| 電子社会保険手帳 | 任意 | 2026年1月1日から義務化 |
| 保険料率 | 合計32% | 変更なし(合計32%) |
算定基礎の明確化(新法第31条)
よくある誤解:「基本給のみ→基本給+手当に変更された」
これは誤りです。旧法でも算定基礎は「基本給+手当+その他追加支払額」でした。新法の変更点は「その他追加支払額」の範囲を縮小し、「定期的・安定的に各給与支払期に支払われることが合意されたもの」に限定した点です。
具体的には、以下のような支払いは算定基礎から除外される方向です。
- 業績連動手当(KPIボーナス等)
- 変動ボーナス
- 不定期の賞与・報奨金
なお、算定基礎の上限額は参照レベル(VND 2,340,000)の20倍=VND 46,800,000/月です。高給の管理職や駐在員の給与がこの上限を超えている場合、上限額で計算されます。
加入対象の拡大(新法第2条)
改正法では、これまで社会保険の対象外だった労働者カテゴリが新たに加入義務の対象となりました。
| カテゴリ | 旧法 | 新法 |
|---|---|---|
| パートタイム労働者 | 対象外 | 対象 |
| 事業登録済み個人事業主 | 対象外 | 対象 |
| 給与を受けない企業管理者 | 対象外 | 対象 |
| 外国人(ベトナム人配偶者・労働許可証免除者) | 免除 | 加入義務化 |
| 試用期間中の労働者 | 対象外 | 引き続き対象外(Decree 158/2025で確認) |
日系企業への影響
パートタイムスタッフを多く雇用している製造業・小売業では、社会保険料の負担が増加します。また、ベトナム人配偶者を持つ外国人社員がいる場合は、新たに加入手続きが必要です。人事部門は対象者の洗い出しを早急に行いましょう。
年金受給要件の緩和(新法第64条・第65条)
年金を受給するための最低加入年数が20年から15年に短縮されました。これにより、ベトナムでの勤務期間が比較的短い労働者も年金受給の可能性が広がります。
- 最低加入年数:20年 → 15年
- 不足期間の補填:最大6ヶ月分の追加支払いが可能
退職を控えたベトナム人従業員に対して、年金受給に必要な加入期間を改めて説明する機会を設けることをお勧めします。
社会保険一時金の制限強化(新法第70条・第102条)
従来、ベトナムでは退職後12ヶ月経過した労働者が社会保険一時金を引き出すケースが多く見られました。新法ではこの制度を大幅に制限しています。
2025年7月以降の新規加入者
「1年経過後の任意引出し」は廃止されます。引出しが認められるのは以下の4条件のみです。
- 定年到達かつ加入年数15年未満
- 海外移住
- 重篤疾病の罹患
- 労働能力の81%以上の喪失
経過措置(既存加入者)
施行日前に加入済みの労働者は、退職後12ヶ月経過かつ加入年数20年未満であれば引き続き一時金を申請できます。ただし、この経過措置は将来的に廃止される可能性があるため、従業員への早期の情報提供が重要です。
その他の重要な変更
滞納罰則の強化(新法第40条・第41条)
- 延滞利息:1日あたり0.03%(年率約10.95%)
- 刑事責任の可能性が法律上明記
保険料の滞納は、これまで以上に高い延滞利息と厳しいペナルティの対象となります。毎月の納付期限を厳守する体制を整えてください。
デジタル化の推進
- 電子社会保険手帳:2026年1月1日から義務化
- 手帳発行期限:20日 → 5営業日に短縮
保険料率(変更なし)
保険料率は今回の改正では変更されていません。以下の通りです。
| 種別 | 使用者負担 | 労働者負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 退職・遺族年金 | 14% | 8% | 22% |
| 疾病・出産 | 3% | 0% | 3% |
| 労災・職業病 | 0.5% | 0% | 0.5% |
| 社会保険 小計 | 17.5% | 8% | 25.5% |
| 健康保険(HI) | 3% | 1.5% | 4.5% |
| 失業保険(UI) | 1% | 1% | 2% |
| 合計 | 21.5% | 10.5% | 32% |
日系企業が今すぐやるべきこと
2025年7月の施行までに以下を確認してください。
- 対象者の洗い出し:パートタイム労働者、個人事業主、外国人(ベトナム人配偶者・労働許可証免除者)で未加入の者がいないか確認
- 算定基礎の見直し:給与構成のうち「その他追加支払額」に該当する項目を特定し、新法の基準に照らして再分類
- 従業員への説明:一時金引出し制限の変更について、特にベトナム人従業員に早めに周知(離職率に影響する可能性あり)
- 給与計算システムの更新:新たな加入対象者を含むよう設定変更
- 滞納リスクの排除:毎月の保険料納付フローを再確認し、延滞利息(年率約10.95%)の発生を防止
まとめ
2025年7月施行の改正社会保険法は、保険料率こそ据え置きですが、加入対象の拡大、算定基礎の明確化、一時金引出しの制限強化など、実務への影響が大きい改正です。特にパートタイム労働者の加入義務化と滞納罰則の強化は、日系企業が見落としやすいポイントです。施行前に社内体制を整え、必要に応じて専門家に相談されることをお勧めします。
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