ベトナムの労働コンプライアンス|解雇・懲戒の法定手続きと従業員保護
ベトナム労働法は、従業員の権利保護を強く重視する法体系として知られています。懲戒処分や解雇については処分の種類・事由・手続きが法律で詳細に定められており、企業はこれらの法定要件を正確に順守する責任を負います。日本の労働法に比べて従業員保護のための手続きが厳格である点が大きな特徴です。
本記事では労働法 No.45/2019/QH14、Decree 145/2020/ND-CP 第70条、Decree 12/2022/ND-CP 第19条に基づき、ベトナムにおける労働コンプライアンスのフレームワーク(懲戒処分の種類・解雇事由・適正手続き・従業員の保護)を実務目線で解説します。
懲戒処分は法定の4種類(第124条)
ベトナム労働法では、使用者が科すことができる懲戒処分は以下の4種類に限定されており、これ以外の処分を行うことは認められません。従業員に不利益を与える処分を企業が無制限に作れないようにすることで、従業員の地位と賃金が保護されています。
| 段階 | 処分 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 戒告 | 最も軽い処分。書面による警告 |
| 2 | 昇給延期 | 最長6ヶ月の昇給延期 |
| 3 | 降格 | 職位・役職の引き下げ |
| 4 | 解雇 | 最も重い処分。第125条の事由に限定 |
第127条により、1つの違反行為に対して複数の処分を科すことは認められません。また、罰金や賃金減額による懲戒も明確に禁止されており、従業員の賃金請求権が制度的に保護されています。
解雇が認められる事由(第125条)
ベトナム労働法では、解雇処分が認められる事由は第125条に列挙された4類型に限られています。さらに、これらの事由が企業の就業規則に明記されていることが前提条件となります。従業員にとって何が解雇事由となるかが事前に予見可能でなければならない、という従業員保護の趣旨です。
- 職場での窃盗、横領、賭博、故意の傷害、薬物使用
- 営業秘密の漏洩、知的財産権の侵害、使用者に重大な損害を与える行為、セクシャルハラスメント(2019年改正で追加)
- 処分期間中に同一の規律違反を繰り返した場合
- 無断欠勤が30日間に5日、または365日間に20日に達した場合(正当な理由がある場合は除く)
懲戒会議による適正手続きの保障(第122条・Decree 145 第70条)
懲戒処分を科すには、適正手続き(デュープロセス)として懲戒会議の開催が義務付けられています。従業員が一方的に不利益処分を受けることがないよう、弁明と反論の機会が制度的に保障されています。
- 会議開催通知: 5営業日前までに関係者へ通知
- 必須出席者: 使用者、対象労働者本人、労働者代表組織
- 労働者の権利: 弁明権の行使、弁護士・代理人の同席
- 議事録: 出席者全員の署名が必要
- 欠席時の取扱い: 正当な理由のない無断欠席が3回続いた場合に限り、本人不在のまま開催可
時効と従業員が保護される期間(第123条・第122条第4項)
処分の時効
- 通常の規律違反: 違反行為から6ヶ月
- 財務・資産・営業秘密に関する違反: 12ヶ月
- 保護期間と重なる場合は最大60日の延長が可能
従業員が保護される期間
第122条第4項は、以下の期間中は労働者を懲戒してはならないと定めています。健康・家庭・身体的事情を抱える従業員を二重の不利益から守るための重要な保護規定です。
- 病気休暇中、使用者の同意を得た休暇中、一時拘留中
- 違反行為の調査結果待ち期間中
- 妊娠中・産休中、または12ヶ月未満の子を養育中の女性労働者
- 精神疾患等により認識能力を失っている状態
違法解雇に対する従業員の正当な権利(第41条)
企業が法定手続きや解雇事由の要件を満たさずに行った解雇は無効となり、従業員は第41条に基づき以下の権利を行使できます。これらは従業員の労働者としての地位を回復するための重要な保護措置です。
- 原職復帰権: 解雇前と同じ業務・条件で復帰
- 休業期間中の賃金全額: 解雇から復帰までの期間
- 社会保険・健康保険・失業保険料の納付: 同期間分
- 追加補償2ヶ月分以上の賃金
- 復帰を希望しない場合、退職手当を追加で受給する権利
一方的契約解除(第36条)と懲戒解雇の違い
業務遂行能力の継続的な不足など、懲戒事由に該当しないケースで契約を終了するには第36条の一方的契約解除手続きを用います。この場合も従業員保護のため、事前通知期間が法律で保障されています。
| 契約種類 | 事前通知期間 |
|---|---|
| 無期契約 | 45日以上 |
| 12〜36ヶ月の有期契約 | 30日以上 |
| 12ヶ月未満の有期契約 | 3営業日以上 |
契約終了時の清算は第48条により14営業日以内(特別な事情がある場合でも最大30日以内)に行う必要があります。なお、懲戒解雇の場合は退職手当の支給対象外となります。
違反企業に対する罰則(Decree 12/2022 第19条)
| 違反内容 | 法人への罰金額 |
|---|---|
| 就業規則に記載のない事由での懲戒 | 40-80百万VND |
| 罰金・減給による懲戒 | 40-80百万VND |
| 1違反に複数処分を科す | 40-80百万VND |
| 保護期間中の懲戒 | 40-80百万VND |
日越の制度差から生じやすい誤解
- 「業務不適格」での解雇: ベトナム労働法では懲戒解雇事由は第125条に限定列挙されており、就業規則にも記載が必要です
- 懲戒会議の省略: たとえ事由が明白でも会議を経ない処分は手続違反となります
- 「退職勧奨」の運用: 日本式の退職勧奨に近い処理は、ベトナムでは合意解約(第34条第3号)として書面で合意を残す必要があります
- 罰金・減給による制裁: 第127条で明確に禁止されており、企業独自の社内規程でも認められません
- 保護期間中の処分: 妊娠中・育児中・病気休暇中など、保護期間中に行った処分は無効です
- 時効超過: 6ヶ月(財務関連は12ヶ月)を超えた処分は法的効力を持ちません
まとめ|従業員保護の枠組みを順守する企業姿勢
- 懲戒処分は法定の4種類のみ。罰金・減給は禁止
- 解雇事由は第125条に限定列挙。就業規則への記載が前提
- 懲戒会議による適正手続きで従業員の弁明権を保障
- 妊娠・育児・病気休暇中は従業員が保護される期間
- 違法解雇時は第41条に基づく従業員の正当な権利が発生
ベトナム労働法は従業員の権利保護を中心に据えており、企業はこの枠組みを正しく理解し順守することが求められます。就業規則の整備と運用フローの構築が、健全な労使関係とコンプライアンス経営の出発点です。
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