2026年9月10日、ベトナムの労働・社会保険分野における新しい行政罰則政令(政令283/2026/ND-CP)が施行されました。
従来の政令12/2022/ND-CP を全面的に置き換えるもので、社会保険の「遅延納付」と「納付逃れ」が初めて別の罰則体系に分離された点が最大の変更です。
本記事では、日系企業が実務で遭遇しやすい違反類型に絞って、違反内容ごとの罰金額を一覧で整理します。
【最重要】本記事の金額は「個人」に対する罰則です
政令283/2026 第7条第1項により、法人(組織)に対する罰金は、記載額の2倍となります。
本記事の一覧表は政令の条文どおり個人向けの金額を記載し、法人適用額を併記しています。自社に適用される額を読み違えないようご注意ください。
政令283/2026 の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 政令番号 | Nghị định 283/2026/ND-CP |
| 公布日 | 2026年7月15日 |
| 施行日 | 2026年9月10日 |
| 置き換え対象 | 政令12/2022/ND-CP(全面置換) |
| 構成 | 6章 68条 |
| 対象分野 | 労働、社会保険、海外派遣労働者 |
時効(処罰可能期間)
- 労働・社会保険分野の違反:1年(従前どおり)
- 海外派遣労働者分野の違反:2年(1年から延長)
最大の変更点:「遅延納付」と「納付逃れ」の分離
今回の改正で最も実務に影響するのが、社会保険料の未納を chậm đóng(遅延納付) と trốn đóng(納付逃れ) に分け、それぞれ別の罰則を適用するようになった点です。
両者を分ける基準は、原則として当局の督促から60日を経過したかどうかです。60日を超えて未納が続く場合、または算定基礎賃金を法定より低く申告していた場合は「納付逃れ」として、より重い罰則の対象となります。
| 区分 | 該当条文 | 罰金(個人) | 罰金(法人=2倍) |
|---|---|---|---|
| 遅延納付 chậm đóng | 第43条第3項 | 未納額の12〜15% (上限 7,500万VND) | 上限 1億5,000万VND |
| 納付逃れ trốn đóng | 第44条第2項 | 逃れた額の18〜20% (上限 7,500万VND) | 上限 1億5,000万VND |
罰金とは別に「日割りの追加納付」が発生します
第43条第4項により、上記の罰金に加えて、未納額に対して 1日あたり 0.03% の金額を追加で納付する義務が課されます。
年率に換算すると約11%に相当し、未納期間が長引くほど負担が加速度的に増えます。
なお、違反調書作成時点の未納額が 40万VND未満 の場合は、罰金ではなく警告にとどまります。
社会保険の未加入・加入漏れ(第43条・第44条)
加入手続きの漏れは、対象従業員数に応じて段階的に罰金額が上がる構造です。督促から60日以内か、60日超かで適用条文が変わります。
| 対象従業員数 | 60日以内(第43条/個人) | 60日超(第44条/個人) | 法人適用額(2倍) |
|---|---|---|---|
| 10人未満 | 500〜1,000万VND | 600〜1,200万VND | 1,200〜2,400万VND |
| 10〜50人 | 1,000〜1,500万VND | - | 2,000〜3,000万VND |
| 50〜100人 | 1,500〜2,000万VND | - | 3,000〜4,000万VND |
| 1,000人以上 | 6,000〜7,500万VND | 7,000〜7,500万VND | 1億4,000万〜1億5,000万VND |
失業保険(BHTN)関連の罰則(第45条・第46条)
| 違反内容 | 条文 | 罰金(個人) | 罰金(法人) |
|---|---|---|---|
| 加入登録の遅延・漏れ | 第45条第2項 | 50万〜3,500万VND | 100万〜7,000万VND |
| 納付の遅延 | 第45条第3項 | 未納額の12〜15% (上限7,500万VND) | 上限1億5,000万VND |
| 加入逃れ | 第46条第1項 | 100万〜4,000万VND | 200万〜8,000万VND |
| 納付逃れ | 第46条第2項 | 逃れた額の18〜20% (上限7,500万VND) | 上限1億5,000万VND |
労働情報の登録義務(第12条・新設)
2026年7月1日から、社会保険の加入手続きと同時に労働情報の登録が求められるようになりました。これに伴い、政令283で新たに罰則が設けられています。
| 違反内容 | 罰金(個人) | 罰金(法人=2倍) |
|---|---|---|
| 労働者が情報を提供しない・不備がある | 100〜200万VND | -(労働者本人) |
| 使用者の未登録(1〜50人) | 500〜1,000万VND | 1,000〜2,000万VND |
| 使用者の未登録(51〜100人) | 1,000〜1,500万VND | 2,000〜3,000万VND |
| 使用者の未登録(101人以上) | 1,500〜2,000万VND | 3,000〜4,000万VND |
その他の主要な罰則
| 違反内容 | 条文 | 罰金(個人) | 罰金(法人) |
|---|---|---|---|
| 労働許可証書類の偽造・改ざん | 第13条第4項 | 4,000〜6,000万VND | 8,000万〜1億2,000万VND |
| ストライキの抑圧・報復行為 | 第30条第3項 | 500〜1,000万VND | 1,000〜2,000万VND |
| 安全衛生教育の虚偽の修了証明 | 第36条第2項c | - | 3,000〜5,000万VND |
| 停止処分中・範囲外での安全衛生教育の実施 | 第36条第2項d | - | 1億2,000万〜1億4,000万VND |
刑事告発の対象となりうる行為(第4条・新設)
政令12/2022 には存在しなかった規定です。以下の行為は、行政罰にとどまらず刑事手続きへ移送される可能性があります。
- 偽造書類の使用
- 労働者データ・労働市場情報の不正アクセス、売買(当局未公開のもの)
- 懲戒処分時における労働者の尊厳・名誉の侵害
- 海外派遣における人身取引・強制労働による搾取
- 15〜18歳の児童労働を禁止業務・禁止場所で行わせる反復違反
- 労働組合基金の不正流用
とくに労働者データの取扱いは、2026年1月1日施行の個人情報保護法(Law 91/2025/QH15)とも連動する論点です。人事データを本社や関連会社と共有している企業は、社内の取扱ルールを確認しておく必要があります。
実務上おさえるべき3つの変更
① 個人事業者(hộ kinh doanh)は個人扱い(第7条第3項)
個人事業者・世帯事業者の違反は、法人ではなく個人として処罰されることが明文化されました。つまり罰金は2倍にはなりません。
② 複数違反の扱いと加重事由(第7条第4項)
原則として違反ごとに個別に処罰されますが、労働組合費・社会保険・失業保険の遅延/逃れが異なる時期に発生していた場合、未処理かつ時効未成立であれば1件として処罰し、加重事由(tình tiết tăng nặng)を適用する扱いになります。
③ 処分通知の電子化(第6条)
違反通知や処分決定が、以下の手段で送達されるようになりました。紙の郵送を待っていると対応が遅れるおそれがあります。
- 電子メール
- 電子身分証アプリ(レベル2以上の認証)
- 登録電話番号へのSMS
- 分野別の電子政府ポータル
日系企業が今すぐ確認すべきこと
- 社会保険の算定基礎賃金が法定どおりか(過少申告は「納付逃れ」=18〜20%の重い罰則対象)
- 手当を算定基礎から除外している場合、その根拠が政令158/2025 に照らして妥当か
- 加入漏れの従業員(試用期間中・短期契約者など)がいないか
- 2026年7月から始まった労働情報登録に対応できているか
- 当局からの電子通知を受け取れる連絡先が登録・運用されているか
とくに算定基礎賃金の過少申告は、日系企業が「手当は対象外」と誤認したまま長期間継続しているケースが多く、遡及すると金額が大きくなりやすい領域です。
政令283では、これが「遅延納付(12〜15%)」ではなく「納付逃れ(18〜20%)」に分類される点に注意が必要です。
👉 算定基礎の考え方については「 ベトナムの手当と課税・社会保険の扱い 」をあわせてご確認ください。
まとめ
政令283/2026 は2026年9月10日に施行され、社会保険の遅延納付(12〜15%)と納付逃れ(18〜20%)が明確に区別されました。
法人への罰金は記載額の2倍、さらに1日0.03%の追加納付が上乗せされるため、未納を放置したときの負担は従来より大きくなっています。
罰則リスクを抑える最も確実な方法は、算定基礎と加入対象者を毎月正しく把握し、納付期限を守る運用を仕組みとして持つことです。
ESTでは、社会保険の算定基礎の自動計算と加入対象者の管理を一元化し、手作業による申告漏れ・計算誤りを防ぐことができます。
👉 あわせて「 社会保険加入の基準と計算方法 」「 控除(SI / HI / UI / PIT)の仕組み 」もご確認ください。
※ 本記事は政令283/2026/ND-CP の主要な罰則を実務目線で整理したものです。個別の事案への適用については、条文原文および専門家の確認をお願いします。


